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緊急コラム 

緊 急 コ ラ ム

─文部科学大臣の発言を巡る報道について─

この10日ほどの間、大学認可問題で揺れ続けた文部科学大臣の発言については、マスコミが連日報道している。それを少し、角度を変えて論じてみたい。

1)二冊の本を読み直して

日本人の頭に詰まっているのは脳ではなく、同じレコードを繰り返す蓄音機(Victrola)だった。


有罪だろうが、無罪だろうが、日本人にとって苦痛なのは『面子』を失うことである。



これらは、ヘレン・ミアーズの『アメリカの鏡・日本』の中の一文である。
11.09-01

私が最初にこの本を読み終えたのが、1997年3月シアトル・ミネアポリス間の飛行機内だったことを、最終ページへの書き込みから、まるで新発見でもしたかのように懐かしく思い出した。
勿論、感慨にふけるために書いているのではない。
なお、この本が書かれた目的は、第二次世界大戦直後、GHQが占領下の日本を研究するためであり、連合軍最高司令官D.マッカーサーが日本での翻訳出版を禁じた衝撃の書と言われている。

久しぶりに目を通した後、もう一冊これまた久しぶりに次の箇所を読みかえした。

サンヘドリンには明確な規定があった。すなわち「全員一致の議決(もしくは判決)は無効とする」と。理由には二説あって、一つは「全員一致」は偏見に基づくのだから免斥、もう一つは興奮によるのだから一昼夜おいてから再審すべし、としている。(サンヘドリンというのはイエス時代のユダヤの国会兼最高裁判所のようなもので、七十人で構成されていた)


これはイザヤ・ベンダサンの『日本人とユダヤ人』の中の一文である。

2)学園祭
学園祭の季節である。毎年、政治家を呼んで講演をしてもらっている大学のサークルがいくつかある。11月3日、「模擬法廷」という文字を見て入ったら、国会議員・蓮舫前行政改革担当大臣の講演会であった。ご自分の仕分け作業の業績を1時間20分ほど話された。
11.09-02

「もう少し慎ましさがなければ息切れしてしまうのでは」などと、余計なことを感じた。最後の質疑応答で、年配の女性が
「今回の文部科学大臣の判断をどう思われますか」と尋ねられた(そのときはまだ、「新設3大学の認可はしない」という状態)。
蓮舫議員はすかさず答えられた。「私は今回の判断は全く正しい」と。
理由は「審議会制度というものが如何に無駄が多く、非能率的か」ということからだった。

3)それから1週間後
ここ1週間、めまぐるしく文部科学大臣およびその周辺の論調が変わっていった。子どもの「学ぶ権利」の剥奪だ、という意見が与党・民主党からも出て、ついに今日(9日)には、田中大臣の陳謝の報道がなされた。

11.09-003

この間、朝日新聞から産経新聞、いやスポーツ新聞といった新聞、テレビ、ラジオ等々「全て」のマスメディアが一斉に「不認可」を批難した。まさに「全員一致」である。
「『不認可』と言ったが、『不認可』決定ではない」とか、何やら禅問答のような官僚作文が読み上げられたりもした。
ここ2日ほど前から、「(大臣の)言い分は分からなくもないが拙速だった」という記事も小さいながら出てきているが。
これが「政治主導」のなれの果てか、最後は「官僚主導」で落ち着くのかと思った人も多いのではないだろうか。
テレビでも新聞でも、評論家という奇妙な人種の人々が、まるで自分が勝ったかのように、したり顔で「子どもの学ぶ権利を奪ってはいけませんね」と述べている。
朝日新聞の11月7日社説タイトルは「田中文科相―「案の定」の大失態だ」とある。
同じ7日、読売新聞は一面トップにこう書いている。「マニフェスト全面謝罪」

ヨミウリ

民主党は国民の80%が支持した政党だった。
マスコミもこれからはマニフェスト政治だと華々しく報じたではないか。

4)なぜ「全員一致」なのか
田中大臣がなぜ、「折れた」か、いくつかの理由はあろう。妥当な方向に落ち着くのかも知れない。「今回の騒動は、(3大学にとって)良い宣伝になっただろう」という発言は、蓮舫議員同様、慎ましさの欠如が露呈しただけだが、「全員一致」で望んだ結果になって、果たしてこの問題は終止符が打たれたのだろうか。内心、そうは思っていない人間が多いのではないだろうか。
元来、日本人には「法」のほかに別の「法」があるのではないだろうか。「法外の法」とでも言うものが。
冒頭に書いたヘレン・ミアーズの言葉を思い出してみる。

日本人の頭に詰まっているのは脳ではなく、同じレコードを繰り返す蓄音機
日本人にとって苦痛なのは『面子』を失うこと


昔、「お客様は神様です」という言葉が流行したときがあった。これには実は深い真意が宿っているのではないだろうか。
民主主義は最終的には多数決であるが、日本では全員一致が最も強く、最も正しく、最も拘束力を持つと解する。「全員一致、一人の異論もない」ことを、決議の正当性を保証するものとする。
しかし本来、民主主義とは多数の方がそれほど間違ってはいないのではないか、ということを根底にするもので、「絶対に正しい」ではないのである。

5)少々辛口を
にわかに「学ぶ権利」とやらが浮上し、また「審議会」の在り方が問題視されてきた。学校教育に関わっている者として、些か意見を述べておきたい。
①「学ぶ権利」
先日、某学科の著名な先生から大学専門課程の授業光景の話を伺う機会があった。「私語が絶えず中学生のような授業」「授業に関心がない学生が多い」とこぼされていた。毎時間、如何に関心を持たせるかの工夫の連続と仰ったことが、生々しく記憶に残っている。「学ぶ権利」などとはほど遠い実情がわが国のあちこちにあることを、政治家に、知識人に知らせ、その原因を皆で考えるべく問題を提起する義務が、マスコミ諸氏にはあるのではないだろうか。

②「認可」の問題点は「審議会」だけか。

「審議会」の在り方を問題にすることは是非、必要なことである。だが、設置・認可で問題にすべき大きな問題はまだあるはずである。認可を得るための文部科学省・役人の「天下り」である。
その醜い実態をマスコミ諸氏は知っているはずである。それを取り上げ、広く考えるべく、これまた問題を提起することが、マスコミ諸氏の義務ではないだろうか。

来春の本「現代社会の問題を糺し未来の扉を開く会」のシンポジウムは、4月6日(土)18時からアルカディア市ヶ谷において、開催いたします。
議題は
「『教育』─あらゆる問題の底流に流れるもの」
代表理事からのレポート
です。
教育は単に学校教育だけではありません。これからの日本の在り方を決める最も重大な、そして喫緊の難問がこの「教育」です。
皆様方のご意見をお聞かせいただき、活発な会にしたいと関係者一同、心から願っております。




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[C12] お手紙

お手紙頂いて
すぐに お返事書こうと思いつつ
遅くなってしまい すみません
頂いた冊子を読みつつ
最近の色々な出来事を 考えたりしています

姫ちゃんは 元気ですか?
マーくん いっちゃんとも 仲良しですか?
日に日に寒さ厳しく くれぐれも
お体大切に…
  • 2012-11-23 22:07
  • もも母 たっちゃん
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プロフィール

marchan

Author:marchan
千葉 糺(ちばただす)
1947年生

東京理科大学大学院修了(数学・複素関数論専攻)
平成14年~18年度学習院中等科長・高等科長。任期満了の後、学習院高等科教諭(平成19年~24年度)を経て
学習院名誉教授。

(写真は雑誌『Shi-Ba』V.43
から。黒柴マーちゃん,
愛猫いっちゃんと)

国画会彫刻家 故・千野茂氏にデッサンを学び、その後テンペラ画を中心に個展、グループ展等開催。

時間を見つけて谷中「全生庵」坐禅会参加。日本ユダヤ学会会員。
2007年、イスラエルを中心に旅行。


最近の紀要論文
(1)『イエス・千日で世界を変えた男の受難』─「『事実』と『真実』というaporia」─
学習院高等科紀要第5号(学習院高等科 2007年)

(2)『イスラエル・灼熱の旅 リポート』─荒野の民から学ぶ─
学習院高等科紀要第6号(学習院高等科 2008年)

(3)『ナザレのイエスはキリストか』=二千年前の一ユダヤ人の死をめぐる過ぎ去ろうとしない「過去」=
学習院高等科紀要第6号(学習院高等科 2008年)
(4)『ユダヤ灼熱の旅リポート2』
─平和ボケの民と臨戦態勢の民─
学習院高等科紀要第7号(学習院高等科 2009年)
(5)『聖書への旅』─「生きること」の意味を探して≪マタイ受難曲を聴きながら≫─
学習院高等科紀要第8号(学習院高等科 2010年)
(6)「パリサイ派とは何か」─現代に問う
補遺 聖書を側面から理解するために
学習院高等科紀要第9号(学習院高等科 2011年)
(7)─横顔・一七世紀オランダ絵画・印象派─西洋絵画についての一考察
学習院高等科紀要第10号(学習院高等科 2012年)
(8)聖書が私に教えてくれること
─『イザヤ書』、コルベ神父、そして山本七平─
学習院高等科紀要第10号(学習院高等科 2012年)
(9)四十年を振り返る
学習院高等科紀要第11号(学習院高等科 2013年)
(10)『院歌の周辺』 ─安倍能成 信時潔 岩波茂雄 頭山満─(学習院高等科 2014年)
(11)『ヘブライ語で学ぶ創世記Ⅰ』「ノアの箱舟」
(12)『これからの教育はどうあるべきか 数学者・秋山 仁先生との対談』(学習院高等科 2015年)
─ 今まさに問われていること ─
(13)『国際化とInternationalizeの狭間で』
─その大いなる溝─(学習院高等科 2015年)
(14)『これからを生きるために』─未来志向の経営の理念─(学習院高等科 2016年)
(15)『地球儀を傍らに』─教職追放 地政学 国際法 民主主義─(学習院高等科 2016年)

(写真は死海での筆者,
シナイ山頂での夜明け)

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